2021年4月11日に、西方音楽館木洩れ陽ホールで「音と身体 ~その拓かれた空間~」と題するピアノ演奏とダンスの催しが開かれました。
西方音楽館は、東京芸大楽理科出身でご自身も鍵盤楽器の演奏家でおいでの中新井紀子氏が一念発起し、地元に音楽文化を根付かせるべくご自宅敷地内に設けた演奏会場。設立当初はさして広くない蔵の中で演奏やパフォーマンスが行われていましたが、現在ではきちんと音響設計がなされた木洩れ陽ホールを有し、スタインウェイのピアノが常設された80人規模の演奏会場になっています。氏は毎年春に西方音楽祭としてシリーズの演奏会を企画・主催なさって今年は第6回にあたるそうですが、ほかにも年間を通して様々な演奏会を催しておいでです。
ピアノの蛭多令子さんは東京芸大ピアノ専攻から大学院を経て博士号を授与された学究肌のピアニスト。特に現代音楽への造詣が深く、現在は埼玉大の教授として後進の指導にもあたっておいでです。中新井さんとは東京芸大の学生寮で出会って以来のお付き合いだそうで、これまでも中新井さんのプロデュースにより、何度か西方や宇都宮で演奏を聴かせていただきました。特に18年前には宇都宮市一条のアンザイピアノテクニカル内アプトホールでスタインウェイをプリペアードピアノに仕立ててケージの曲を演奏。このときも妻木律子さんのダンスと共演なさっておいででして、私はいまだにそこの前を通るたびに往時のことを思い出します。
ダンスの妻木律子さんはここでも何度もご紹介していますが、宇都宮出身でモダンダンスの正田千鶴さんに師事なさり、今では一門の筆頭格。宇都宮を拠点とすることにこだわり、南宇都宮駅前に公演もできるスタジオ空間として大谷石蔵の be off を開設。ダンスセンターセレニテで生徒を育てるほか、ご自分が踊るものを含む数多くの公演をプロデュースしておいでです。中新井さんとは子供の頃からの同級生だそうで、18年前に蛭多さんと妻木さんを結びつけたのは双方を良く知る中新井さんだったそうです。
で、特筆すべきは西方音楽館の木洩れ陽ホールに設置されたスタインウェイの音色でして、国内の各ホールに置いてあるスタインウェイはほとんどがハンブルク製ですが、木洩れ陽ホールのものはニューヨークスタインウェイのB型です。ハンブルクスタインウェイとは一線を画す鳴り方で、明瞭かつ繊細で演奏者のタッチを如実に反映して多彩な音を出します。蛭多さんが弾くと不協和音ですらきれいに響く(!) ほどで、何年か前、宇都宮の栃木県総合文化センターサブホールにホロヴィッツが愛用したと言うニューヨークスタインウェイのC&A機材をタカギクラヴィアが持ち込んで鳴らしたことがありましたが、そのとき聴いた音に通じる音色です。
4月11日には、第1部が [ピアノ&ダンス] 5曲と [トイピアノ&ダンス] として1曲、休憩を挟んだ第2部ではピアノ演奏のみで木下大輔氏の「こだま号で行こう 増補版」より8曲が演奏されたのち、西村朗氏の「夜光」のピアノ演奏で、妻木さんと山田哲也さんがデュオで踊りました。山田さんもここで何度かご紹介していますが、もともとインド舞踊のダンサーで、妻木さんのダンスセンターセレニテにも長年参加していらっしゃいます。長年培われた阿吽の呼吸で妻木さんと繰り広げるデュオは見応えがありました。
私が本番を撮影したのは第1部のみで、第2部は別の方に替わりました。リハーサル風景は撮影していましたので、おまけとして末尾に掲載します。
第6回西方音楽祭 音と身体 ~その拓かれた空間~
2021年4月11日 西方音楽館 木洩れ陽ホール
ピアノ:蛭多令子 Reiko EBISUTA
ダンス:妻木律子 Ritsuko TSUMAKI, 山田哲也 Tetsuya YAMADA (第2部のみ)
第1部
[ピアノ&ダンス]
田中 カレン:テクノエチュード
吉松 隆:プレイアデス舞曲集Iより フローラル・ダンス, 水によせる間奏曲
プレイアデス舞曲集IIより 鳥のいる間奏曲
プレイアデス舞曲集IIIより 真夜中のノエル
[トイピアノ&ダンス]
ジョン・ケージ:トイピアノのための組曲
第2部
[ピアノ]
木下大輔「こだま号で行こう 増補版」より
桜前線, 畑のパエリア, 収穫祭, 晩秋, イワトビペンギン, 行進曲, ポズナンの思い出, ウィーンの夜
[ピアノ&ダンス]
西村 朗:夜光
撮影:2021年4月11日 (第2部はリハーサル)
機材:ニコン Z6II, Z 24-200mm f/4-6.3 VR. (サイレント撮影, 手持ち, ISO6400, 絞り優先オート)
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